
3年で株価が6倍になったアシックス株。米資産運用会社フランクリン・テンプルトンのジャパンファンドは、この上昇の果実を得たプレーヤーの1つだ。どのような目利きをもとに資金を投じたのか。運用を担当するチェン・ショーン・クー氏に聞いた。 ――アシックスに3年以上投資していますね。
「きっかけは(伝説的ファンドマネジャーの)ピーター・リンチのような話だ。私はテニスをする。2015年に米ナイキからアシックスにシューズを切り替えたとき、もっと早く替えるべきだったと思った。テニス仲間に勧めると皆の満足度が高かったため、調べることにした」
「2022年当時、アシックスの営業利益率は低かったが、改善傾向にあった。広田康人最高経営責任者(CEO)に会い、足元の利益率を改善させた方法について質問した」
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「広田氏の説明は、独ソフトウエアSAPの導入により製品レベルでの収益性が可視化された、とのこと。収益性の要件を満たさないモデルを廃止し、最も収益性の高いモデルの販売に注力することが可能になったという。世界トップクラスの製品を持ち、従来は売り上げ拡大に重点を置いていた企業が、今や利益率の向上に重点を置く。私は、アシックスとの長期にわたるパートナーシップの始まりだと感じた」


米フランクリン・テンプルトンのチェン・ショーン・クー氏
――ジャパンファンドの運用手法を教えてください。
「ボトムアップで銘柄選別する際、投資先企業の業界や価値創造の力学について、事業運営者の視点で理解しようとしている。投資先企業の中核事業が、業務効率や資本効率の観点から大幅な改善が見込めるかどうかが鍵を握る。市場が企業に対して抱く印象と、我々自身の調査結果との差異にも注目している」
「個別企業の意思決定におけるバイアス(偏り)を理解することで、投資判断ミスを減らすよう努めている。多くの投資家は『企業が何をすべきか』を考えて誤りがちだ。企業がすべきことと、企業が実際にすることは、経営判断の結果として、あるいは能力不足によって異なる場合がある」
――日本の企業統治改革をどのように評価しますか。
「改革の流れが完全に定着しているのは喜ばしい。すべての企業が同じペースで動いているわけではないが、姿勢に大きな変化が起きていると感じる。私は2016年から日本株をみてきた。新型コロナウイルス禍以前に企業と対話してきた頃の経験と今とでは、隔世の感がある」
(聞き手はニューヨーク=竹内弘文)
チェン・ショーン・クー シンガポールの投資会社ワン・ノース・キャピタルや米バンク・オブ・アメリカを経て2016年にフランクリン・テンプルトン入社。シンガポール拠点のポートフォリオマネジャーとしてジャパンファンドの運用を担当。
フランクリン・テンプルトン 上場株や債券、オルタナティブ(代替)投資など、幅広い資産クラスで運用を手掛ける米運用会社。運用資産総額は2024年末時点で約1兆5800億ドル(約230兆円)。日本を含む「アジア太平洋地域」の資産が全体の11%を占める。